夕方5時。
彼からのメッセージを受け取った私は
パソコンをそっと閉じて日常を終わらせると
軽快な足取りで彼のもとへ向かった。
今晩彼と帰るのは
最近引っ越したばかりの二人の新居。
…ではなく、川のほとりの静かなお宿。
松江の街中にこんなお宿があったのね。
足元を照らすエントランスの灯りが
慌ただしい日々に少し疲れていた新婚夫婦を
温かく出迎えてくれた。
見慣れない玄関の扉を開く。
「ただいま～」
はしゃぐ私がおどけて言うと
「おかえり～」
彼が後ろから続けてくれた。
「今回のお泊りが新婚旅行第一弾だね」
そう言って二人はこの日を楽しみにしていた。
玄関に入ると、目の前には
優しい木の香りがする螺旋状の階段が続いている。
二人は階段を伝って、あちこちきょろきょろ
3階建ての宿中を探索してみる。
ふと目に留まったのは
丁寧に壁一面に飾られた色とりどりのカードだった。
島根の様々なスポットが紹介された「探検カード」。
二人で行ったことのある思い出のスポットもあれば
まだ行ったことのない
ディープで魅力的なスポットも数多くあった。
まだまだ知らない島根があるんだ。
これからも、
まだまだ二人で島根を楽しんでいけそうね。
さてっ。
お腹もすいたしご飯にしようかね。
普段なかなかお目にかかれない
大きなお肉に彼はうきうき興奮気味。
最近、慣れない料理に挑戦しては
たまに失敗して落ち込む私に
「大丈夫だよ、美味しいよ、ありがとね」
そう言って彼はいつも励ましてくれる。
そんな優しい彼が
今夜の豪華な夕食に手放しに喜ぶ姿を見て
私は心底嬉しかった。
テレビのない温かく静かな和室で二人は
ゆっくり会話を楽しみながら
ゆっくり食事を味わった。
普段からインドア派な私たち夫婦が
特別な今夜の過ごし方を考えた結果
アロママッサージを注文してみることにした。
慣れない日々を互いに気遣い合って過ごしていた
ここ最近の私たちはどうやら
かなり体が凝り固まっていたようだった。
アロマの香りに包まれた部屋で
リラックスして過ごした60分は
本当にあっという間で
マッサージが終わった頃には
体がすーっと軽くなり
なんだか心までホカホカした気分だった。
「そろそろ寝ようか」
「うん、そうしようか」
静かで特別な今日のひとときを思い出に
また明日からの日常へと
私たち二人は戻っていくことにした。
彼がそっと灯りを消した。
「おやすみ」
私はそっと目を閉じた。
「おやすみ」
また明日からもよろしくね。